2012年8月27日月曜日

道化師の蝶が舞う世界で、文学が見る夢は

「道化師の蝶」
円城 塔

単行本: 178ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062175614
ISBN-13: 978-4062175616
発売日: 2012/1/27
 
 
理系の異色作家が抽出した文学の”純粋”
   比類なき想像力で圧倒する世界文学!
正体不明&行方不明の作家、友幸友幸。
作家を捜す富豪、エイブラムス氏。
氏のエージェントで友幸友幸の翻訳者「わたし」。
小説内をすりぬける架空の蝶、通称「道化師」。
東京-シアトル-モロッコ-サンフランシスコと、 世界各地で繰り広げられる“追いかけっこ”と“物語”はやがて、 “小説と言語”の謎を浮かび上がらせてゆく――。

 さてこそ、ことしの正月に芥川賞受賞。そういえば、ダブル受賞のもう一人の人が「もらっといてやる」とか発言したので、そちらの方に話題が集中してしまった。
 というのも、こちらの表題作=受賞作が難解すぎて、というのが世間の評判になっているから、作品そのものには誰も触れたがらないのかも。
 
 さてこそ、冒頭の作品紹介が手際よくまとめてくれているので、それ以上言うことはなく、そういった作品だということだ。
 だが、細かいところで心ふるわせるものがある。そう、これはセンス・オブ・ワンダーに満ちた物語。むかしはよくこういった物語を読んだので、爺には面白い作だった。そのころは、こんな作品はSFに分類されていたものだ。サイエンスには関わりのないファンタジー調のSFだけどね。

<道化師の蝶>
 友幸友幸の著作
 「腕が3本ある人への打ち明け話」「猫の下で読むに限る」
 友幸友幸、生年不明、生地不明。世界各地を転々とし、現在のところ生死不明。
 その友幸友幸という作家をめぐって、エイブラムス氏亡き後、その財団が追跡を続ける。
 何十という言語をあやつり、ましてやその言語で原稿を書き残し、いずこへか消えてしまう友幸友幸。
 銀線細工の技法でつくられた、てのひらに収まるほどの補虫網。これでつかまえるのは「着想」。エイブラムスは、旅の間、着想は人の体をはずれて浮遊すると考えたのだ。
 その「着想」を捕まえて財団へ送ると、それに見合った報酬が支払われる。
 定期報告のためにサンフランシスコを訪れたエージェントは、日本語はよめないだろう老婦人にレポートを提出する。
 その夜、老婦人は夢想ともつかぬ原野で扉を発見する。壁もなく、柱もなく、扉だけが佇んでいる。その前に老人が現れ、蝶をステッキで追い払いながら、蝶を捕まえる網を編んでくれと頼まれる。
 捕まえた蝶を鱗翅目研究者に持って行くと、彼は、この蝶は捕らえられたのではない、あなたが蝶に付いて来たのだ、と・・・
 ね、わからないでしょう。

<松の枝の記>

 さてこそ、書評をみていると、こちらの方がすんなり入っていけた、という声が多い。
 だが、じじいには、何が書いてあるのか分からなんだ。
 作家と翻訳者が互いの作品にインスパイアされ、作品の翻訳作品から新たな作品を生み出す。そのなかには「道化師の蝶」と思われる作品が出て来る。
 さてこそ、松の枝に止まるのは蝶なのかも。

 さてこそ、話題の2編。何が起こっているのかといえば、文学が文学の夢をみている、ということなのだそうだ。円城文学では、文学は人間の夢をみない、という巽孝之教授の解説が一番わかりやすかった。
 

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