2013年8月21日水曜日

月下上海は山口版カサブランカだった

「月下上海」
山口 恵以子

単行本: 270ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語, 日本語
ISBN-10: 4163823506
ISBN-13: 978-4163823508
発売日: 2013/6/24

第二十回松本清張賞受賞。スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子。謀略渦巻く戦時下の上海で、多江子が愛する運命の男たち。
昭和17年10月、八島財閥令嬢にして当代の人気画家・八島多江子は、戦時統制化の日本を離れ、上海にやってきた。そこで、招聘元である中日文化協会に潜入していた憲兵大尉・槙庸平から、民族資本家・夏方震に接近し、重慶に逃れた蒋介石政権と通じている証拠を探すように強要される。「協力を断れば、8年前の事件の真相をマスコミに公表する」8年前、多江子が夫・瑠偉とその愛人によって殺されかける有名な事件が起きた。愛人は取り調べ中に自殺し、瑠偉は証拠不十分で釈放されたものの、親元の伯爵家から除籍され、満州へ追われた。そして奇跡的に一命を取り留めた多江子は、スキャンダルを武器に人気画家へのし上がった。だが、その真相は、愛人と外地へ駆け落ちしようとした瑠偉を許せなかった多江子が、他殺に見せかけて自殺を図ったのだった。槙は何故か、その秘密を嗅ぎつけていた。不本意ながらも夏方震に近づいた多江子は、その人間的な大きさに惹かれて行く。夏もまた、首と心に大きな傷を持った多江子の強さと孤独に惹かれ、心から愛するようになる。やがて夏の求愛に心を開いた多江子は、槙にきっぱりと任務を断り、夏の胸に飛び込み、共に生きる決心をする。だが、多江子の何気なく漏らしたひと言からヒントを得た槙は、工作員を捕え、夏をスパイ容疑で逮捕してしまう。多江子は槙の利己主義につけ込み、莫大な謝礼と引き替えに、夏を憲兵隊本部から連れ出す取引をする。そして夏を実家の八島海運の貨物船で密航させ、上海から逃がす。だが、成功に油断した多江子は槙に犯されてしまう。槙の真の狙いが八島海運にあると察した多江子は、命懸けの対決を余儀なくされる。そして……。

担当編集者から一言
「受賞者は食堂のおばちゃん」と、新聞・テレビで盛んに取り上げられた、第20回松本清張賞受賞の山口恵以子さん。小説の腕前も一流です。スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子。謀略渦巻く戦時下の上海で、多江子と4人の男たちの運命が交錯する。読み始めたら止まらない、サスペンス・ロマンの逸品です。(AK)

 表紙や裏表紙がきれいなので、大きめに。
 アラフォーの美貌の画伯・八島多江子。
 昭和17年、多絵子は上海に降り立つ。

 幼い頃から共に育った音楽家の瑠偉と結婚出来たものの、自分勝手な自負心から、瑠偉のわがままを許して浮気のさせ放題。やがて瑠偉は浮気相手と海外へ行ってしまう。そのとき、瑠偉が自分を殺そうとしたと見せかけたのが、多絵子のせめてもの反撃だった。
 事件はスキャンダルとなり、画塾の講師として身を立てていた多絵子は、自分から菊池寛に売り込み、文藝春秋で挿絵画家としてデビューする。
 そして8年。上海での個展を開くまでに名を挙げ、不自由な日本を逃れて上海での自由奔放な生活を楽しむことになる。

 そこに現れたのが、憲兵大尉の槙。事件の真実を暴露すると脅されながら、軍というより、槙自身の野望の片割れをかつがされることになる。
 上海の実業家であり油絵の蒐集家としても知られる夏方震という大富豪がいた。彼が南京政府転覆を画策しているという事実を暴こうというのだ。

 多絵子は画家としての立場から夏に近づくが、反政府的な動きなど見つからないまま、夏の魅力に圧倒されていく。
 漢詩を日本語で読み上げる多絵子、中国語で朗誦する夏。ふたりの心が通い合う。
 上海でのパーティー、高級料理店での会食、蘇州への旅など、このあたりがハーレクイン・ロマンスみたいと評価される所以かな。
 だが、時は流れ、軍による夏の逮捕が迫ったことを知り、多絵子は夏を八島海運の貨物船でインドシナへ逃れさせる。

 やがて敗戦。日本に強制送還させられようとする直前、多絵子は、戦時中に軍の広報紙に挿絵を描いていた戦犯として、上海に足止めされてしまう。技術雇用日僑として中国共産党に雇われる。
 そこで、同じく戦犯として留置されていた槙と出会い、夏のこと、槙とのひとときのつながりを思い起こす・・・

 読みながら、ふと、これって宝塚の舞台にしたら面白いんじゃないか、と思ってしまった。美貌の画家、野心を秘めたイケメンの憲兵、実業家でおおらかな富豪、繰り広げられるパーティー、戦争への不安や少年兵の助け、もろもろが舞台にふさわしい。
 と書きながら、実はこの作品って、上海版の「カサブランカ」じゃないか、とわかってしまった。

 作者は食堂のおばさん、で話題になった松本清張賞受賞作品。女性には気恥ずかしいような描写がある、などという評もある。そんなこだわりを持っても持たなくても、うっとりする作品ではある。
 

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