2013年8月8日木曜日

高校入試小説版で入試対策を練ろう

  • 「高校入試」
  • 湊 かなえ
単行本: 383ページ
出版社: 角川書店
言語 日本語
ISBN-10: 4041104793
ISBN-13: 978-4041104798
発売日: 2013/6/28

  • 県内有数の進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。そして迎えた入試当日。最終科目の英語の時間に、持ち込み禁止だったはずの携帯電話が教室に鳴り響く。さらに、ネットの掲示板には同校の教師しか知り得ない情報が次々と書き込まれて......。誰が何のために、入試を邪魔しようとしているのか? 振り回される学校側と、それぞれ思惑を抱えた受験生たち。やがて、すべてを企てた衝撃の犯人が明らかになる――。

 昨年秋にフジテレビで連続ドラマ「高校入試」が放映されていた。
 そのときの脚本は湊かなえさん。それを元にした「シナリオ・高校入試」はすでに本になっている。
 そして今回の「小説・高校入試」。

 ドラマでは複雑な人物像が見た目に整理できたが、小説ではなかなかイメージが伝わらないのでは、と少し心配。
 というのも、文頭の一行目に【春山杏子】というように、カッコかこみでその章の語り手が紹介され、その人物の一人称でひとつの章が綴られていくからだ。
 おっと、その前の行には、インターネットの掲示板に書き込まれるメッセージと時間が表示されるのだがね。

 そして、一人称の語りは場所の説明もあやふやで、教室、職員室、会議室、校長室、渡り廊下、自宅の自分の部屋、キチンにいるのか戸外にいるのかもわからず、先生や生徒、同窓会長といった肩書きや区別もなく、ただ単に姓名だけで表記されるので、慣れるまでには時間がかかる。なにせ23人もの人物が登場するのだから。その点、ドラマを見ていた人には、あ、こんなシーンに見覚えがある、とかになるかもしれない。あるいは、湊さんの吹っ切れた筆が、そんなことに関係なく、物語を伝えることに成功した。
 とにかく、すごい臨場感で場面がせまってくる。

 入試一週間前。
 一高、といえば県下で最優秀な生徒が通う高校なのだ。この町では入試の合格発表の翌日に粗大ゴミ置き場が勉強机で満杯になる、という伝説がある。一高にさえ受かれば人生の成功者、あとは大学にいかずとも、おちこぼれになろうとも関係がない。一高に受かればもう勉強することは必要ない。したがって、勉強机はゴミになるというわけ。

 その一高の入試をぶっつぶそう、というインターネットの掲示板が現れる。
 最初は公立高校の入試を語ろうという呼びかけだった。
 それが、定員割れの学校など関係ない、一高を語れという流れになっていく。
 一高出てフリーター、それでも親は満足! などという書き込みも。
 やがて、掲示板は一高の入試をぶっつぶす、というために存在することが明らかになる。
 入試の前日には「仕込み完了」というメッセージが。

 入試試験会場となる5教室のすべてに「入試をぶっつぶす!」と墨汁で書かれた模造紙が貼られているのが発見される。
 そしてひとりの教師の携帯電話が黒板の上に隠されているのも見つかる。
 携帯電話についての注意書きが各教室に掲示される。
 ひとつの教室にだけ、昨年の注意書きがそのまま使われそうになって、あわてて年度だけ書き直されて掲示される。そこには「携帯電話の持ち込みは失格」の文言がなく、携帯電話は使用禁止と明記されているだけだった。これが後々、問題になる。

 さて、先生たちにもいろいろいる。
 主役の春山杏子先生は帰国子女。大学卒業後、大手の旅行代理店に務めていた。一念発起して教員採用試験に一発で合格した才女。
 相田清孝はバレー部顧問。同僚の滝本みどり先生と付き合っていて、インディゴ・リゾートにふたりで出掛けるプランがある。予約困難なリゾートへは春山先生のコネで強引にもぐりこんだ。だが、生徒の石川衣里奈とあやしい関係にあるようだ。
 松島先生は、息子が一高を受験するので、ことしは入試関係の作業からは手を引いている。

 入試を受ける子供たちの親にもいろいろいる。
 問題は同窓会長の沢村だ。ことしは息子が受験するので、付き添いにやって来る。それも横柄な態度で特別待遇を迫る。
 県会議員・芝田の妻も、娘の受験の付き添いにやってきていた。
 父兄たちは食堂に集められ、話題のTVドラマのビデオを見て時間をつぶすことに。

 さて、入試が始まる。
 携帯電話は電源を切った状態で先生たちにより回収される。もし試験の途中で電話がなるようなことがあれば、その持ち主は失格する旨の注意がおこなわれる。
 同時に、ネットの掲示板でも実況が始まる。
 「まずは漢字問題、侮る、秀逸・・・余裕だな」
 「次は数学、2問目に証明の超難問、本当に高校入試問題か」
 「次は社会、応仁の乱はいつだっけ」

 昼の休憩時間にも携帯電話は返してもらえない。
 休憩後の午後一番の教科は理科。
 「中学校で実験が禁止されている問題なんか出すな」
 そして最後の英語の試験時間に問題が起こる。残り時間あと15分というときに、窓際の女子生徒の携帯電話の着信音がなったのだ。
 生徒はただちに失格とみなされ、教室から退出させられる。県会議員の娘だった。

 ここまでで三分の一。
 事件はさらに続く。

 同窓会長はケータイ騒ぎは試験妨害であり、息子は被害者だと告発する。全員に追加点をやれ、とも。
 県会議員の妻は、携帯が鳴ったくらいで失格はおかしい、そんな注意書きはどこにもない、と訴える。たしかにその教室の掲示には失格とは書いていないのだ。口頭で注意した、といっても。その先生のもごもご言った説明では聞こえていなかったと言われてしまう。

 英語の答案用紙が一枚足りないのがわかる。携帯電話が鳴った教室での分だ。
 答案用紙に書き込みが見つかる。「ケータイ騒ぎのさなかにカンニングしていた」—松島先生の息子の解答用紙だった。
 答案用紙に名前が書かれていない一枚があった。ほぼ完璧な成績なのに、なぜ?

 後半、採点をめぐっての先生たちのやりとりも面白い。というより、本題はここにある。いわゆる採点ミスをめぐり、入試の本質、人間だから起こりうるミス、そのミスで人生を左右されてしまう受験生の悲しみ。
 そこに、いったん帰宅した筈の沢村同窓会長が、壁に貼ってあったという答案用紙を持ち込んで来る。それには沢村の息子の受験番号が書かれている。沢村の息子の答案用紙は2枚存在することになるのか。一枚は82点、あとで見つかった方は100点。どちらを取るかで合否が変わってしまう。

 やがて、そのすべてが掲示板を通してネットに広がっていることに気付いた学校当局は対策に翻弄される。

 そして、受験生の兄の過去、春山先生の過去が明らかになる。
 志望校に落ちて私立名門校で放送部として活躍していた兄が作成した、高校入試のドキュメンタリー。兄は採点ミスにより自分が不合格になったと思い込み、学校に開示請求したが、その結果明らかになったのは・・・。だが、それをドキュメンタリーに仕立て上げた結果、兄は返り血を浴びることに。
 熱血バカの先生と旅行さきで知り合った春山先生が教師を目指したいきさつ。熱血先生は入試に失敗した生徒の自殺騒動に巻き込まれて・・・

 入試がすべて、と考える人々。そんな人々の思惑を考えながらも、教師たちは受験に対して真摯に向き合っているのだろうか、という問いかけ。
 受験生や受験生を持つ親たちばかりでなく、受験したことのある全てのひとに対して、そうであってほしいという願いを込めて、先生たちよ、高校入試に対処したまえ。
 

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