2011年1月24日月曜日

迷子になった医師が、迷子石で救われたのは

「迷子石」
梶 よう子

単行本: 266ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062165988
ISBN-13: 978-4062165983
発売日: 2010/12/10

 幕末、安政の大地震の翌年というのだから、映画「赤ひげ」で描かれたような、そんな時代。舞台は富山藩の江戸藩邸。
 羽坂孝之助は藩の見習い蘭方医だが、病人相手が苦手で、子供たちに絵を教えたりする毎日。富山の薬売りたちが売る「置き薬」のおまけに付ける、江戸の景色を描いた版画の下絵描きなどで小遣い稼ぎをしていた。
 そんな、のんびりした日常が突然、破られる。
 
 江戸藩邸の工事で犠牲者が出たり、台風が襲って幼馴染の絹代親子が災難にあったりする。
 そこに国許から、おなじく幼馴染で、いまは勘定方として一目置かれている長右衛門が江戸詰めとして出府してくる。彼から同郷の仲間たちの近況を聞いたりして懐かしい思いをするのもしばし。長右衛門は江戸藩邸と国許との間に微妙な溝があることを薄々気付き、江戸勤めを避けたい気持ちでいるらしい。
 薬売りの惣吉が意外な報告をもたらす。「江戸へ向かっていた、お父上が殺されました」。そしてその犯人は、これも幼馴染の村岡順也だというのだ。しかし薬売り風情の惣吉がなぜそんな事態をつかんでいるのだ。

 タイトルの迷子石とは、嵐のあとで行方不明になったり、家族とはぐれたりした人々のために消息を書き留めておくための掲示板を示す標識のこと。
 人生の岐路にたたされた孝之助が迷子石に導かれて行くのは・・・

 人付き合いにはうとく、政治向きなど、とんと無関心だった孝之助だが、陰謀の実態を知るにつれて、国許に戻った惣吉と連絡をとる必要が生じてくる。そこで孝之助は版画に暗号をひそませて国許に送るという手段を考え出す。本書の紹介にはこのエピソードがメーンにされているのだが、実は後半になって出てくる話なのだ。大きくは孝之助が医師として成長して行く物語。伊東玄朴などという著名人も孝之助を育てるひとりの医師として登場する。
 富山の国許と江戸との距離感がどうも分かりづらく、そうまでして連絡を取り合う必要があるのか、とも思ってしまうが、そこは舞台装置と理解して、ひとつのトリックとして認めてしまおう。
 

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