2011年12月16日金曜日

折れた竜骨、タイトルに秘められた暗号とは


「折れた竜骨」
米澤穂信

単行本: 338ページ
出版社: 東京創元社
ISBN-10: 4488017657
ISBN-13: 978-4488017651
発売日: 2010/11/27

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年──そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか? 現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!

*第1位 『ミステリが読みたい!2012年版』国内篇
*第1位 『2012本格ミステリ・ベスト10』国内ランキング
*第2位 〈週刊文春〉2011ミステリーベスト10 国内部門
*第6位 Best Books of 2010Amazon.co.jpエディターが選ぶ文芸TOP112010128日)

 という具合に年末のベストテンでは、どの出版社でも上位にランク。
 内容紹介を見ると、あやしそう、難しそうに思えるが、すんなり物語世界に入っていってしまっているのに驚く。
 語り手は領主の娘である。

 ソロン島の領主である父と、次代領主と目される兄とともに北海の島で暮らしている。
 ある日、父が募集した傭兵たちが島にやって来る。来るべきデーン人との戦争に備えて、というのだ。その中に放浪の騎士ファルク・フィッツジェンもいた。彼の従者である少年といい、ファルクその人といい、どうも一筋縄ではいかない存在のようだ。

 だが、その夜、父が殺されてしまった。壁に飾ってあった剣を奪われ、それを使って椅子に串刺しにされていたのだ。
 アミーナは悲しみを抑えて、ファルクとともに、事件の捜査を始めることになる。
 まず、父が殺されていた執務室。ファルクが剣に何やら粉をふりかけると、そこから犯人の手形が浮かび上がり、賊は右手で剣をつかんでいたことがわかる、という。そして、その粉で足跡をうかび上がらせると、6歩で父の元まで到達したと、その時の行動までが手に取るように見えてくるのだ。

 ファルクの捜査は次に、島を訪れた傭兵たちのそれぞれの事情を聞きだし、ついては昨夜の行動を確かめることに費やされる。
 だが、そのとき、呪われたデーン人たちが島を攻めて来る。生者とも死者ともつかぬ賊たちは切られても死なず、切られた手足をつなぎ合わせることで再生してしまうのだ。デーン人を殺すには首を切り落とすしか方法はない。首を切り落としてもそこから出てくるのは血ではなく赤黒い霧だけなのだ。

 傭兵たちは立派に務めをこなした。呪いをかけられ子供の姿のままながら、巨大な機械人形をあやつる魔導士。男にもひけをとらない女剣士。弟の差し出す矢を、目にもとまらぬ早業で賊どもに射かける、曰くありげな風来坊。
 彼らの活躍でデーン人たちを追い払ったあと、いよいよファルクの謎解きが始まった。
 だが・・・・

 書名にもなった「折れた竜骨」の意味はラストになって分かる。
 それは北海の島から遥かな大洋を目指すひとりの少女の旅立ちにこそふさわしい言葉であり、新たな出会いを未来につなげる言葉でもあったのだ。
 その後味の良さが好評価にもつながっているのだろう。
 

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