2011年12月4日日曜日

おなじみ名探偵の学生時代をのぞきみる


「生霊(いきだま)の如き重(だぶ)るもの」
三津田 信三

新書: 384ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4061827898
ISBN-13: 978-4061827899
発売日: 2011/7/7


刀城言耶シリーズ初の学生時代の事件簿! 刀城言耶の学生時代の事件簿が登場。言耶がいかにして名探偵になっていったのか…!? 本編のような長編ではなく、シリーズ初読の人にもうってつけの短編集!
刀城言耶は、大学の先輩・谷生龍之介から、幼い頃疎開していた本宅での出来事を聞かされる。訥々と語られたのは、『生霊』=『ドッペルゲンガー』の謎だった。怪異譚に目がない言耶は、その当時龍之介が見たものが何だったのか、解明を始めるのだが…(「生霊の如き重るもの」)。表題作ほか4編を収録した、刀城言耶シリーズ短編集最新作。

「死霊(しりょう)の如き歩くもの」
 大晦日から新年にかけて、学生の言耶がおとずれたのは本宮家。民俗学者の集まりに呼ばれたのだ。そこで怪談ばなしに興じている学者のひとりが殺される。そのとき言耶が見たのは、誰もいないのに勝手に動き回る下駄だった。

「天魔(てんま)の如き跳ぶもの」
 謎の失踪事件で名高い箕作(みつくり)家。ここでは何人かのおとなやこどもが突然消失するという事件が発生していた。たまたま訪れた言耶の目の前でひとりの少女が突然消えてしまう。邸宅の周囲に自生する竹やぶの中に溶け込むようにいなくなってしまったのだ。

「屍蝋(しろう)の如き滴(したた)るもの」
 先代の当主が生き仏として眠るという池の中の小島から、夜な夜なしずくを垂らして死霊がさまよい出るという。即身成仏を願った当主がミイラとなり、屍蝋化した死体が歩きまわるのだ。言耶が訪ねたおりもおり、その小島で女性が殺される。雪が降りしきり、密室状態となった島で、小島から現れた死霊を垣間見た目撃者がいた。

「生霊(いきだま)の如き重(だぶ)るもの」
 表題作。先輩から、疎開していたころに見聞したドッペルゲンガーの体験を聞き、言耶はその村へ赴く。旧家に復員してきたふたりの跡継ぎの息子の真贋を確かめるよう依頼されたのだ。ひとりは本当の息子で、もうひとりは幽霊なのか。だが、そのうちの一人が不思議な死に方を遂げ、その謎を解くことも言耶に委ねられてしまう。

「顔無(かおなし)の如き攫(さら)うもの」
 学生達が怪奇話に興じているなかに言耶も交じりこみ、戦前に大阪で起こったという少年消失事件の謎を解くことになる。高級長屋と下層民の長屋がつらなる、とある路地の奥、顔なし地蔵がまつられている中に歩いていった少年は、そこから出てこなかった。
 角兵獅子や蝦蟇の油売り、刃物の研ぎ屋、遊行僧の六部など、昭和初期の風物を盛り込んで、残虐な事件の謎は意外な展開に。

「密室の如き籠るもの」2009年4月

「七人の鬼ごっこ」2011年3月

 この読書録では、上記2作に続いての三津田ミステリー。
 この短編集を読んでいる中間くらいの時点に、前々回レビューの「よろずのことに・・・」をはさんで読んでしまい、なにやら民俗学づいてしまって、いささかへんな案配。

 今作は、短編だけに謎そのものは平板だし、複雑な人間関係も現れない分、ストーリーとしては一直線。いつものややこしい謎解きに閉口していたむきにはお手頃な一冊。
 

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