「夢の花、咲く」
梶 よう子
単行本: 285ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 4163810404
ISBN-13: 978-4163810409
発売日: 2011/12/20
『一朝の夢』で松本清張賞を受賞した梶さん。朝顔の栽培だけが生きがいという同心・中根興三郎が思わぬ形で幕末の政情に絡んでいく物語で、好評を博しました。本書はその姉妹編、あの“朝顔同心”が帰ってきます! 時は前作から遡ること5年。ひとりの植木職人が殺され、物語の幕が開きます。安政の大地震、将軍継嗣問題と、なにやら現代を映したような舞台で、頼りなげでも誠実であろうとする興三郎の活躍を、ぜひご堪能ください。(YB)
幕末の江戸。
窓際族の同心、中根興三郎。名簿係りなどというパッとしない仕事をまかされているが、本人はいたってその職に満足している。剣術にも自信がない彼は、変種の朝顔栽培を生きがいとして、夏から秋にかけての一時期がそのもっとも輝く時期だ。
変種の朝顔というのは八重咲きや花弁が細いものなど、変化朝顔のこと。江戸時代から御家人などを中心に、花を掛け合わせることで変化を生み出す、その栽培が盛んになっていたらしい。江戸時代の人々は体験的にメンデルの法則を理解していた?
だが、そこに職人の斬殺事件が起こる。
河原で斬り殺されていたのだが、被害者の体を検視して、これは植木職人だと見当をつける。そのときたまたま知り合った男が、被害者の似顔絵をスラスラと描き上げてくれた。似顔絵をたよりに調査をすすめると、その男は朝顔栽培にも手を出していたことがわかる。おりしも開かれた朝顔の競い合わせに関係していたというのだ。
その似顔絵を描いたのは河鍋周三郎。河鍋暁斎という名で現在も名を残す有名な風刺画家だった。当時はまだ駆け出しで、仮名垣魯文とつるんで一旗あげようとたくらんでいるところ。
黒船に乗った異人たちを描いた暁斎の似顔絵などを見たことがおありだろう。
この物語の中では、安政の大地震で暴れ回るナマズの絵が大きな比重を締め、それを通じて変化朝顔栽培にまつわる連続殺人事件の謎も解かれて行く。
実はさきの「親鸞・激動篇」をあいだにはさんで読みついできたので、ストーリーの大きな流れが少し記憶から遠のいてしまっていた。
河鍋暁斎、仮名垣魯文など、明治になっても活躍する有名人のサブストーリーとしても面白い。
ということで、夢の花は咲くのだろうか。
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