2012年5月7日月曜日

奈良の平日は文化と水の音につつまれて

「奈良の平日 誰も知らない深いまち」
浅野 詠子

単行本(ソフトカバー): 250ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062170213
ISBN-13: 978-4062170215
発売日: 2011/11/1


町家カフェ、古都の近代化遺産、街角のお地蔵さん
海なし県の水辺の風景、隠れたうまいもの
今までになかった視点で歩く 世界遺産の隣にある奈良!

和菓子屋の角に「奈良ホテル近道」という小さな立て札を偶然見つけ、細い路地に誘われるように行ってみる。歩いてほどなくすると、法蓮格子(ほうれんごうし)の風情ある町家がぽつり。小さな看板をかかげていて、文化財の解説か何かだろうと最初は思った。ところがそうではなく、昔、元興寺(がんごうじ)の鐘楼に出没する悪い鬼を退治しようと坊さんが追いかけてきたが、このあたりで見失った。だからここは不審ヶ辻子町(ふしがづしちょう)と呼ぶ。そう書いてある。鬼を見失ったまちなんて、愉快な話だ。――<「まえがき」より>

遷都千三百年で再び注目を集める奈良。
地元紙記者出身の著者が、寺社・仏像だけじゃないディープなまちの魅力を紹介するこだわり紀行エッセイ。

 神奈川出身で、奈良の地方紙で記者を勤めていた女性が奈良を書く。
 いたって普通なんだけど、少しおもむきが違う。
 ガイドとなると、その地域をめぐって、この店、こんな歴史、それからもうひとつの蘊蓄という並びになるのが普通(?)ですよね?
 この本では著者が新聞記者として出会った、雰囲気とでもいうのか、魅かれるものに導かれて出会ったあれこれを、奈良全般に関連づけて記述していく。

 「きたまち」なんて言い方は知らなかった。東大寺の転害門から西の方角、奈良女子大学周辺まで、まちなみを残した一昔前が残る奈良を紹介。

 おなじみ「ならまち」と題された第2章では新薬師寺の本堂に自転車がしまわれていた、なんて話があって、そうそう、新薬師寺なんて、爺の若い頃は「大和の隠れ古寺」で、草ぼうぼうの荒れ果てた寺だったことを思い出す。

 「高畑の洋館秘話」では文化人たちの交流と新しい息吹を持ち込んで、今でもその雰囲気を維持している人たちの熱意がよくわかる。

 「まちなか地蔵さん」では、郡山城のさかさ地蔵やら夕日観音、法隆寺までまとめて話題に。

 「近代化遺産」と題された5章ではJR奈良駅旧駅舎を残してくれた先人への感謝の気持ちが素直に伝わって来る。今の東京駅を残そうとしている努力も確かに大変なものだろうが、残っていてこそ伝わるものがある、などと、年寄りの爺は思ったりするのだよ。

 「乗り物」ではめずらしい「駕篭」がでてきた。爺は見たことがないのだが、かごの高さから見た町並みというのもなかなか面白そう。いつも客引きに熱心な人力車や、はては生駒山上の飛行塔まで。生駒の飛行塔は軍隊に徴用されて監視塔として使われていたそう。地元民にしては知らない話で、これも興味深いものがある。

 「大和の水景」で出て来る民家の中にある「白水庵」。これには興味がわいた。いつか訪ねてみなければ。この章で出て来る富本銭最中は筒井の甘露堂本舗の銘菓ということで、ここはメモ代わりに残しておく。

 さて最終章は「大和の食べもの雑記帳」ということで、取材で出会った人たちとの打ち合わせで、記者仲間との飲み会で使ったあちこちの店が列挙される。奈良にうまいものなし、などと悪口はよくあるが、ひと味違ったグルメガイドとして、以下に店名とおおまかな所在地、ひとこと紹介を写しておくので、なにかの参考に。

 「三九みつまた」 新大宮駅前 気さくな割烹
 「あらき」 学園前 カウンター席
 「アスター」 同 洋菓子と喫茶
 「食房エスト」 同 フレンチ
 「SUENAMI」 大和郡山冠山町 レストラン くちなしの実
 「南果」 高畑 オーガニックランチ
 「みりあむ」 同 カレー、ケーキ
 「温石」  懐石
 「豆井」   豆腐料理
 「ろくさろん」 新薬師寺 喫茶 「村おこし」
 「春鹿」 純米大吟醸原酒「華厳」
 「八木酒造」 升平
 「まついし」 JR奈良 立ち飲み
 「雷来」 小西町 和洋創作ダイニング
 「ヒヤシンスカフェ」 南市 二次会
 「月吠」
 「ふりぽんぬ」
 「まんぎょく」
 「つる由」 ならまち 割烹 (鯛の皮揚げ、丸鯛の昆布じめ、焼き魚)
 「美吉野醸造」 花巴
 「魚志(うおごころ)」八木駅前
 「粋庵」 今井町
 「ウエダベーカリー」 大和高田内本町 たかだあんぱん
 「えとね」 富雄 フレンチ居酒屋
 
 ということで、メモがわりのブックレビューとはなったけれど、最後のメモには力が入ったと追記しておきましょう。
 

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爺の読書録