2012年5月11日金曜日

リリエンタールの末裔は今も空を飛んでいる

「リリエンタールの末裔」

上田 早夕里

文庫: 328ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 415031053X
ISBN-13: 978-4150310530
発売日: 2011/12/8

海洋黙示録『華竜の宮』が大反響! 今もっとも注目されているSF作家による 初の本格SF短篇集『華竜の宮』の世界の片隅で空を飛ぶのを夢見た青年の信念を描いた表題作、18世紀の魔都ロンドンを描く書き下ろし中篇等4作

彼は空への憧れを決して忘れなかった――長篇『華竜の宮』の世界の片隅で夢を叶えようとした少年の信念と勇気を描く表題作ほか、人の心の動きを装置で可視化する「マグネフィオ」、海洋無人探査機にまつわる逸話を語る「ナイト・ブルーの記録」、18世紀ロンドンにて航海用時計(マリン・クロノメーター)の開発に挑むジョン・ハリソンの周囲に起きた不思議を描く書き下ろし中篇「幻のクロノメーター」など、人間と技術の関係を問い直す傑作SF4篇。解説:香月祥宏 カバーイラスト:中村豪志

「リリエンタールの末裔」
 空を飛ぶことを夢見た少年、となれば、古いブラッドベリの作もあったね。「イカロス・モンゴルフィエ・ライト」なんて作品を思い出す。
 地球は250メートルの海面上昇で破滅的な被害を受けた。再建されつつあるその世界の高知に住む民族は背中に鉤腕をもつ種族だった。子供たちは軽い枝と薄い布で作った翼を、その鉤腕でつかみ、5メートルの高さの丘からの滑空を楽しんでいる。
 そんなひとりの少年が、やがて街に出て、十数年後にそこそこの成功をとげ、ふたたび大空へ飛び立とうとする姿を描く。
 リリエンタールの名前は、羽ばたく飛行機を考えたダ・ヴィンチ、羽ばたかなくとも飛べるグライダーを作ったケイリーに続いて、自分でグライダーに乗った最初の男として登場する。

「マグネフィオ」
 事故で障害を負った恋人の心の中を磁性流体アートとして表現しようとする。そのネーミングが「マグネフィオ」。
 磁性流体アートの一部は、ネットでも見ることができる

「ナイト・ブルーの記録」
 有線無人探査機「ナイト・ブルー」で海底を研究する科学者。だが、彼はMMAS(ヒト機械同化症候群)にかかり、探査機の感覚そのものが自分の感覚だと思い込むようになる。

「幻のクロノメーター」
 わたしはエリー。父の仕事仲間だったジョン・ハリソンを訪ねてロンドンへのぼった。ハリソンは交易船団が必要とする経度を計るために必要な正確な時計を作るコンテストに何度も挑戦して優秀な結果を出していたけれど、未だにお役人はそれが気に入らない。彼が大工出身だということが差別になっているのかしら。
 あるとき、不思議な石が現れて、世界は奇妙な変化をとげていく。それはあなたの住む世界とは異なる世界につながっていくことになる。
 でも、ハリソンが残したクロノメーターはあなたの世界のネットでものぞくことができるので、いちど見てみるのもいいかもしれないわ。

 大きく変貌した世界を描いた前作「華竜の宮」の世界の一部を描いたタイトル作から、パラレルワールドの18世紀を覗き見ることができるクロノメーターの完成まで、SFの醍醐味が詰まった一冊。久方ぶりのSFに酔う。
 

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