2012年5月20日日曜日

自爆条項とはなにか、それを超えるものは

「機龍警察 自爆条項」
月村 了衛

単行本: 462ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152092416
ISBN-13: 978-4152092410
発売日: 2011/9/22


軍用有人兵器・機甲兵装の密輸事案を捜査する警視庁特捜部は、北アイルランドのテロ組織によるイギリス高官暗殺計画を察知した。だが特捜部には不可解な捜査中止命令が。国家を超える憎悪の闇は特捜部の契約する“傭兵”ライザ・ラードナー警部の、凄絶な過去につながっていた―組織内でもがく警察官たちの慟哭と死闘。圧倒的なスケールと迫真のリアリティで重厚に描く、話題の“至近未来”警察小説。

 横浜港で荷下ろしするコンテナ船を調査していた警察官や税関職員が、荷役作業員の白人から逆襲される。犠牲者18人におよぶ無差別大量殺戮だった。そしてコンテナからは、組み立ての終わった完成形態の機甲兵装が発見されたのだ。

 近未来、パワードスーツによるテロを防御するべく、警視庁には、同じく機甲兵装による特捜部が配備されている。その3体の機甲兵装をあやつるのは姿、ライザ、ユーリの3人。
 昨年の「機龍警察」の続編。前回の事案から間もない頃、英国高官の暗殺計画を阻止すべく特捜部が動き出す。
 
 横浜港の事件では、背後に、ある組織の存在が浮かび上がる。それは前回事案に関係する人物の影だった。そして彼らは、IRFと手を組み、英国から訪れる高官へのテロを計画しているというのだ。
 だが、捜査を進めようとする本部に上層部から捜査禁止の命令が下る。沖津警視長は上層部からの捜査中止に反発、自らの意思で独自の捜査を開始する。

 そのとき、ライザのもとを訪れたのは、彼女をテロリストに育てたIRFの<詩人>ことキリアン・クイン。そして、<猟師><墓守><踊子>とあだなされる3人のテロリスト。彼らは裏切り者としてのライザを処刑すると予告して去って行く。
 
 今回、ライザの過去が明らかにされる。ベルファストで裏切り者マクブレイド家の子供として差別され続けて来た。そして大切な妹は悲痛なテロの犠牲となって言葉を失う。その引け目がライザを動かす。

 沖津はチェスの格言を捜査の基本方針に据える。
 「序盤は本の如く」
 「中盤は奇術師の如く」
 「終盤は機械の如く」
 
 ライザはシリアでテロリストとしての訓練を受け、<詩人>キリアンの命令のもと、ロンドンやアイルランドで死の翼を広げて行く。だが、その暗躍の犠牲者となるのが、特捜部の技術班主任・鈴石緑の家族だった。そして偶然の出来事がライザ自身を裏切り者にしてしまう。

 ライザの過去の章はまさしくジャック・ヒギンズ調。哀切きわまりない悲劇が、ライザを<死神>に変えて行く。
 
 終幕、テロリストの襲撃に対応して特捜部が出動。ここで「自爆条項」の何たるかが明らかになる。だが、その条項にはまだ裏があったのだ・・・・

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