2013年6月3日月曜日

ブラックボックスが組み込まれた日本の食卓

「ブラックボックス」
篠田節子


単行本: 504ページ
出版社: 朝日新聞出版
言語 日本語
ISBN-10: 4022510455
ISBN-13: 978-4022510457
発売日: 2013/1/30


サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?
会社の不祥事で故郷に逃げ帰ってきた元広告塔・栄実、
どん詰まりの地元農業に反旗を翻した野菜生産者・剛、
玉の輿結婚にやぶれ栄養士の仕事に情熱を傾ける聖子。
真夜中のサラダ工場で、最先端のハイテク農場で、閉塞感漂う給食現場で、彼らはどう戦っていくのか。
食い詰めて就職した地元のサラダ工場で、栄実は外国人従業員たちが次々に体調不良に見舞われるのを見る。
やがて彼女自身も……。
その頃、最先端技術を誇るはずの剛のハイテク農場でも、想定外のトラブルが頻発する。
複雑な生態系下で迷走するハイテクノロジー。
食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。
週刊朝日連載の単行本化。


 郊外の町。後藤グループが町を支配している。


 剛(たけし)、郊外で農業を営む。親の農地を引き継いだのだが、このままでは行き詰ってしまう。そこに後藤グループから新しい農業をしようと誘いがかかる。最初は乗り気ではなかったが、社長自らが出向いてきて、ついに決断してしまう。


 栄美(えいみ)、アルバイトで夜のサラダ工場で働いている。もとは一流企業のキャリアウーマンであり、会社の広告塔としてマスコミでも脚光を浴びていた。会社が倒産し、故郷のマンションで一人暮らしだ。
 アルバイト先の堀田という先輩が、野菜を消毒するときに使った次亜塩素酸をすすぐ水が止まっていたことで、工場の管理体制に不服を訴えたことから立場が変わってしまう。
 それまでも不満があった。従業員は研修生という名目で雇われているフィリピーナや日系のペルー人。日本人は2人だけだった。現場監督は親会社からの出向だが、セクハラが常態化している。堀内のいうとおり、外国人従業員が寮に持ち帰ったサラダを食べようとすると、へんな匂いがしたりする。
 工場の管理体制がマスコミにもれるが、会社はそれを闇に葬ることに成功。栄美はロッカールームで水道工事会社の書類を発見したことを上司に告げる。時を同じくして工場の改造がはじまり、半年間の自宅待機を命じられてしまう。


 中国人パートの突然の発作。セクハラのあげくにフィリピーナは懐妊して奇形児を早産する。栄美自身にも発疹ができ、かゆみがおさまらない。
 そうこうするうちに、中学校のクラス会が開かれる。
 そこで久しぶりの対面となったのが、ハイテク農場をいとなむ剛と、医者に嫁いだものの離婚して里帰り、今は小学校で栄養士をしている聖子。3人は同級生だった。


 聖子は今の給食体制の現実を説明する。
 アレルギー体質の子供には、かつての代替食でなく、いまはアレルゲン抜きの給食が用意されるのだという。極端な例として、小麦粉抜きのうどん。
 そして、子供たちの体質が急に変わったりすることがあるのだという。一月前にはなんともなかった食品に急にアレルギー反応をおこしたりするのだそうだ。


 剛は自分のハイテク農場のずさんさに苛立ち、農場の管理は専門家にまかせて、自分は昔ながらの農業を始める。ハイテク農場で生産された製品には、照明や栄養液によって、なにか分けがわからないものが生まれてきているのではないのか、と不安になってしまったのだ。


 ハイテク農場で生産された野菜は遺伝子組み換え野菜ではないのかと疑う。だが、結果はシロだった。
 野菜パックに添えられる、うまみのもとだというドレッシングに何か含まれているのか。 
 いや、そうでもない。
 ただ、人体に無害なはずのわずかな科学物質が、ほかの化学物質と結びついたときに、発ガン物質が生まれることがある。


 というように、ハイテク農場で生み出された野菜と、人体には無害な添加物とが結びついて、すぐにはわからないが、人体に影響を及ぼしていく恐怖。
 結局、主人公たちは手作り野菜で自分たちの未来を守っていくことにするのだが、さて、それがいかに恵まれたことなのか・・・

 

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