2013年7月8日月曜日

永遠の0(ゼロ)は永遠への入り口だった

「永遠の0」
百田 尚樹


文庫: 608ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 406276413X
ISBN-13: 978-4062764131
発売日: 2009/7/15


「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくるーー。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。
著者からのコメント
この小説のテーマは「約束」です。
言葉も愛も、現代(いま)よりずっと重たかった時代の物語です。


 2006年の刊行。文庫になったのが2009年。
 昨年は「海賊とよばれた男」で本屋大賞を受賞した百田さんの、これがデビュー作。そしてことしの年末、映画が公開される。主役は来年の大河ドラマで1年中見ることになる岡田准一さん、脇には井上真央ちゃん、三浦春馬くん、吹石一恵さんも頑張ってくれる。こちらも楽しみ。


 祖父はふたりいた。
 今の祖父は、祖母が戦後になって再婚した相手であり、母の実父ではなかったのだ。
 それを姉から聞かされた健太郎は、司法浪人の自分を励ましてくれる現役弁護士の祖父とは血がつながっていなっかたということで奇妙な思いを持つ。
 では、本当の祖父はどんな人だったのだ。


 祖父は宮部久蔵といい、ゼロ戦で戦い、特攻隊として死んでいったというのだ。
 いま世界では、当時の特攻隊は現代のテロリストと同様に理解されているそうだ。たしかに国家神道のもと、爆弾を抱いて敵艦にぶつかっていくというスタイルは、現代の宗教的な対立から自爆テロでトラックごと突っ込んでいくテロリストと変わらないと思われているのだろう。


 フリーライターの姉は、新聞社で戦後60年の特集記事を書くという。
 健太郎は姉とともに、かつての祖父の軍隊仲間を探し出し、インタビューに出向く。


 最初に会ったのは祖父とラバウルで一緒に戦った長谷川梅男という老人。埼玉県郊外の農家。隻腕の長谷川は「宮部は臆病者だった」と証言する。


 次に探し出したのは伊藤寛次、元海軍中尉。四国の松山に住む。
 真珠湾攻撃から、初期の太平洋戦争の実態を解説してくれる。そして祖父は「妻のために死にたくはない」と言っていた。慎重だが優秀なパイロットだった、と評価する。


 次にインタビューした井崎源次郎は都内の大学病院のベッドの上で答えてくれる。元海軍飛行兵曹長。
 ラバウル航空隊で出会った宮部のパイロットとしての腕前を、井崎は「素晴らしい技術をもっていた」とほめる。と、同時に「非常に用心深い人でした」とも。
 
 永井清孝。和歌山に住む元海軍整備兵曹長。
 祖父は囲碁棋士になりたかったが、祖父の父に反対されていたそうだ。そして撃墜したアメリカ人兵士の胸ポケットから見つけた彼の妻の上半身のヌード写真を仲間の兵士たちはもてあそぶ。祖父はそれを取り上げ、元あった兵士の胸に収めてやった。


 谷川正夫。元海軍中尉。今は岡山の老人ホームにいた。
 戦争が終わってから戦後にかけて、軍人たちが受けた、いわれのない非難を述べ、何のために戦って来たのかという後悔をさらけだす。
 フィリピンで一緒だったという谷川は、いよいよ狂気にむかっていく日本軍の実態を語る。「特攻」という思想が生まれたとき、特攻に志願するか、と訊かれたとき、宮部だけが志願することはなかった。


 結局、当時の高級官僚は当時もさばかれることはなかったし、外務省の重要な役職についたりしている。日本の軍隊のえらい人たちは兵隊を消耗品として扱っていただけだ。その思いを、健太郎と姉はあらためて共有する。


 元海軍少尉であり千葉の県会議員も務めていた岡部昌男。
 筑波の練習航空隊に教官として配属された宮部に、岡部も生徒として接してきた。厳しい先生だった。宮部は、今の操作技術では米軍に撃ち落とされるとして、なかなか合格点をくれなかった。
 昭和20年、特攻爆弾「桜花」が取り入れられ、乗員の教育は使い捨ての兵を育てるだけのものだった。特攻の目的は勝つためではなかった。沖縄戦の後半は特攻に志願するもしないもない、通常の命令だったという。


 元海軍中尉、武田貴則。一部上場企業の社長も務めた男だ。
 新聞社勤めの姉の恋人も一緒にインタビューを始めたが、武田は彼を否定する。彼の新聞は戦後に変節し、過去の一切を否定して、大衆に迎合、人々から愛国心を奪ったと非難する。
 特攻隊員の遺書を例えに上げ、その行間から特攻隊員の真意を理解出来ないようなジャーナリズムは必要ないと喝破する。


 景浦介山は元ヤクザだった。都内の住宅地に用心棒らしき男たちと住まいしている。
 「奴は死ぬ運命だった」。そして、「おれはあいつが嫌いだった」とも。霞ヶ浦の予科練を出て、台湾、フィリピン、ジャワ、ボルネオ、そしてラバウルで宮部と出会う。
 宮部に模擬戦を申し込んだが断られる。しかし、米機との空戦のあと、たまたま宮部機に機銃を撃ち込むチャンスがあった。しかし、みごとな技でそれをかわされる。
 そして、その日、特攻機に乗って適地に向かう宮部を、景浦は護衛して行くことになった。


 鹿児島市内に住む大西保彦。無線通信士だった。鹿屋基地から飛び立つ特攻機を最後まで無線で追跡していた。
 宮部が飛び立つとき、トラブルがあった。旧式機に乗る乗員と宮部が交代したのだ。宮部は新型機をきらい旧型機を選ぶ。だが、その新型機はエンジンの不調で不時着したという。
 その新型機に乗っていたのは・・・


 驚くと同時に、宮部の覚悟がここで理解できる。
 そして、エピローグにかけては涙・涙で読み続けるのがつらくなるのは、爺だけだろうか。

 さて、この夏は宮崎アニメでゼロ戦開発者の物語が描かれるし、年末にはこの作品も映画化、と、夏から来年前半にかけては「ゼロ」でおおいに盛り上がりそう。

 P.S.この文庫は解説が児玉清さん。爺など、これだけで泣けてしまうのだが。

 

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