2010年10月8日金曜日

手紙の中からそれぞれの真実が浮かび上がる

「往復書簡」


単行本: 265ページ
出版社: 幻冬舎
ISBN-10: 4344018834
ISBN-13: 978-4344018839
発売日: 2010/9/21

湊さんの最新作。今回は連作と銘打ってあるが、本当は短編集。
一人称で語るのは著者お得意の手法。今回は手紙の形式をとって、モノローグが交わされる。
そこには、書いた人が見えない、書き手自身の独断と偏見に満ちた世界が現れてくる。故意に書いた嘘もある。ねじまげられる真実がある。

「十年後の卒業文集」
高校時代放送部の仲間だった二人が結婚することになって、その友人たちが結婚式に集まった。ただ、メンバーの一人、千秋が参加していない。5年前に起こった事故のせいかもしれない。それぞれが胸に不安をかかえて結婚式に参加していたのだ。
10年後に交わされる書簡の数々。そこに現れるのは松月山の月姫伝説、放送部内で起こった恋のかけ引き、5年前の同窓会で起こった悲惨な事故。それにもかかわらず自分たちの愛を育んで結実させたふたりへの賛歌。
事故は過失なのか、故意だったのか。そして結婚式に参列していない千秋は意外なところから結婚式を見守っていた・・・

「二十年後の宿題」
恩師の依頼を受けて、同い年の6人の男女を訪ねることになった。
恩師の前の学校でおこった20年前の事件。恩師の夫が川に落ちた児童を救おうとして、おぼれて亡くなるという事故がおこったのだ。
同じ事件を体験した6人それぞれから話を聞き、彼らの現状報告としてそれを書き付けて恩師に送る手紙。そして報告に対して恩師から返される書簡には、その 事柄について、人柄についての解説が綴られている。そういう意味では往復書簡ではあるが、ケースごとの報告が会話体であり、きわめて小説的に出来ているこ とから、盛り上がりもあり、一番まとまっている。

「十五年後の補習」
万里子と純一の往復書簡。この1篇だけが、題名通りの書簡の往復で成り立っている。
中学のころ同級生だった純一との結婚を間近だと思っていた万里子に純一が打ち明けたのは、国際ボランティアのメンバーになって外国に行ってしまうという告白だった。それも2年間。ふたりの間を取り持つために多くの手紙が行き来する。
手紙の中で明かされるのは、高校時代の旧友の撲殺放火事件。そこに到るまでの万里子の生い立ち、純一の過去。旧友たちの間でのいじめ、軋轢、確執。
ふたりそれぞれに持っていた思い込みと誤解、それが白日のもとにさらされ、ふたりの仲もあわや、というとき・・・

映画「告白」が米アカデミー賞に出品されるとかで話題になり、淡路島での執筆状態なども取材されて、今や時の人。最新作も超人気。湊ファンはやめられない。

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