2012年6月5日火曜日

パラダイス・ロストの影にうごめくものは

「パラダイス・ロスト」
柳 広司

単行本: 257ページ
出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
言語 日本語
ISBN-10: 4041101387
ISBN-13: 978-4041101384
発売日: 2012/3/24


異能のスパイたちを率いる“魔王”――結城中佐。その知られざる過去が、ついに暴かれる!? 世界各国、シリーズ最大のスケールで繰り広げられる白熱の頭脳戦。究極のスパイ・ミステリ!
内容(「BOOK」データベースより)
大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校“D機関”。「死ぬな。殺すな。とらわれるな」―軍隊組織を真っ向から否定する戒律を持つこの機関をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが“魔王”結城は、まるで幽霊のように、一切足跡を残さない。ある日プライスは、ふとした発見から結城の意外な生い立ちを知ることとなる―(『追跡』)。ハワイ沖の豪華客船を舞台にしたシリーズ初の中篇「暗号名ケルベロス」を含む、全5篇。

『誤算』
 1939年、独軍占領下のフランス。
 留学生の島野亮祐は、ドイツ軍に野次をとばしていた老婆を助けたことから、レジスタンスのメンバーと知り合いになる。だが、島野はそのときドイツ軍に受けた暴力で記憶喪失になってしまった。ドイツ軍から逃れた島野はレジスタンスのメンバーが所持していた拳銃を瞬く間に分解、修理するなど、自分でもわからない能力を発揮する。
 島野の行動につきまとう誤算とは・・・

『失楽園』
 英領シンガポール、ラッフルズ・ホテル。失われたパラダイスとも呼ばれる、東洋の真珠。そこで新任の米海軍士官キャンベルが一目惚れしたのはデンマーク人との混血ジュリア。
 だが、ホテルの中庭で英国人の実業家が死体で発見され、ジュリアが、自分がその殺人の犯人だとして自首してしまう。
 日英同盟が破綻して、日本のスパイが暗躍するシンガポールで、前任の将校を追い立てるためにD機関のスパイがはなつ非常手段とは・・・
 
『追跡』
 日本通の新聞記者プライス。56歳。日本に来て10年になる。
 D機関の生みの親である結城中佐を追いつめることを悲願とするプライスは、有崎子爵の養子として育ったある青年の生い立ちに興味をもち、彼の執事ともいうべき老人にその過去を聴取する。
 その過程で浮かび上がった彼の肖像はまさに結城中佐を彷彿させるものだった。そしてその情報を本国に伝えるべく秘密の伝達手段を取ろうとした彼の元に・・・

『暗号名ケルベロス』
 1940年6月。
 サンフランシスコから6日目、汽船はハワイに到着寸前。
 内海脩はある英国人を罠にはめる。クロスワード・パズルを使って突き止めた相手は米国人の貿易商を名乗っていた。だが、その実は英国秘密情報員、暗号の専門家なのだ。しかし、それもつかの間、男はワインに混入された毒薬で殺されてしまう。
 男は何故殺されなければならなかったのか。
 男が最後に発した「ケロベロス・・・」とは何を意味するのか?
 
 エリートスパイたちを指揮する結城中佐があやつる異能の男たち。今回は直接結城の影は見えないが、すべての物語の背景に結城がいる。
 バリエーションゆたかな素材にそだってきたD機関の物語。今後の展開も楽しみ。

 

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