2012年6月12日火曜日

サファイアの輝きは湊ファンへの贈り物

「サファイア」
湊かなえ

単行本: 281ページ
出版社: 角川春樹事務所
ISBN-10: 475841193X
ISBN-13: 978-4758411936
発売日: 2012/04/18


市議会議員の選挙アルバイトを始めたことがきっかけで、議員の妻となった私は、幸せな日々を送っていた。激務にもかかわらず夫は優しく、子宝にも恵まれ、誰もが羨む結婚生活だった。だが、人生の落とし穴は突然やってきた。所属する党から県議会議員への立候補を余儀なくされた夫は、僅差で落選し、失職。そこから何かが狂いはじめた。あれだけ優しかった夫が豹変し、暴力を振るうようになってしまった。思いあまった私は……。絶望の淵にいた私の前に現れた一人の女性――有名な弁護士だという。彼女は忘れるはずもない、私のかけがえのない同級生だった……。(「ムーンストーン」より)7つの宝石が織りなす物語。湊かなえ新境地がここに。

 湊さんのセカンドステージだとか、新境地だとか、毎回まどわされているが、この本はまぎれもない、「告白」に続く傑作だ。
 読者はみんな、「告白」のショックが忘れられず、湊作品を読み続けているのだが、ここにきて、ようやくそれが報われたのではないだろうか。
 
 短編集。
 「告白」も、もともとは短編で発表された作品だったので、短編としての完成度が高かった。今回の7作品もそれぞれ完成度が高く、びっくりしながら楽しむことが出来る。

『真珠』
 たぬき顔の女。いちご味の歯磨き。
 そこに隠された犯行とは・・・

『ルビー』
 たばこ畑の向こうに立つ老人福祉施設<かがやき>。
 そこの入居者である「おいちゃん」がくれたプレゼントは・・・


『ダイヤモンド』
 月曜日。ドアにぶつかったスズメを介抱して逃がしてやった。
 その夜、スズメの化身だという黒づくめの女がやってくる。
 望みを叶えてくれるというスズメに依頼したことは・・・

『猫目石』
 キルマカット・エリザベス3世。ブリティッシュ・ショートヘアのメス猫。
 その飼い主が暴いて行く家族の秘密に・・・

『ムーンストーン』
 市会議員の妻としてのわたしが犯した罪を弁護するために訪れたのは、昔の友人だった。
 走れメロス。友よ、君のためならこの命をかけて闘おう!

『サファイア』
 表題作。そして次の「ガーネット」に続く連作になっている。
 人生初のおねだりだった。だが、その日、修一はやって来なかった。
 彼の過去が明らかになる。悪徳商法の片棒をかついでいた修一は友人のタナカと一緒にあくどい商売をかさねていたのだ・・・

『ガーネット』
 修一との思い出をもとに綴った「墓標」という作品でデビューしたわたしは、新々女優と対談することになった。彼女も悪徳商法の被害者で、わたしの作品から修一との関わりを気付いていたようだ。
 だが、彼女は悪徳商法を暴くのではなく、それがもたらした結果を示してくれた・・・

 巻末にもってきた2編が、あざやかにこの1冊の印象を決めてくれる。
 ひとの悪意がもたらす、すれちがいや悲劇を描いて来た作者が、悪意の裏側を描いた7篇。
 後味の良い一冊となった。
 やはり湊ファンを続けていかねば・・・

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録