2012年6月3日日曜日

降霊会の夜に訪れた亡霊たちは

「降霊会の夜」
浅田次郎著

単行本: 292ページ
出版社: 朝日新聞出版
言語 日本語
ISBN-10: 4022509503
ISBN-13: 978-4022509505
発売日: 2012/3/7


罪がない、とおっしゃるのですか―死者と生者が語り合う禁忌に魅入られた男が見たものとは…。
至高の恋愛小説であり、第一級の戦争文学であり、極めつきの現代怪異譚。
謎めいた女の手引きで降霊の儀式に導かれた初老の男。死者と生者が語り合う禁忌に魅入られた男が魂の遍歴の末に見たものは……。至高の恋愛小説であり、一級の戦争文学であり、極めつきの現代怪異譚――。まさに浅田文学の真骨頂!

 私が小学校3年生だったころの思い出。転校生としてやってきたキヨこと井野上清。私より小柄で、チビだった私は、彼のおかげで教室の最前列から2列目に座れることになった。
 東京五輪を目前に控えた下町の東京。銭湯や、テレビを鑑賞するために集まる近所の人たち。だが、まだ戦後をひきずる男たちもいて、キヨの父はそういった人のなかの一人だった。祖父や父との交流を交えて、キヨとは親しく付き合うことになったが、1学期が終わって、母の実家で夏休みを過ごすために出かけようとしていた私の目の前で・・・

 私が住まう、浅間山を望む森の中の家に、雷鳴とどろく午後に訪れた女は、夢の中で見た女にそっくりだった。その女は梓といい、梓の紹介で、口寄せをおこなうというミセス・ジョーンズとその姪のメアリーと出会うことになった。
 そして、
現れた亡霊たちは彼女たちの口から、過ぎ去った日々の悔恨ともいえる思い出を語っていく。

 浅田さんの文章は朗読に向いている。
 前に銀河テレビの朗読会を鑑賞したから余計にそう思ってしまう。特に下町の風情など、まったく朗読に向いた文章を綴っているな、と思ってしまう。

 そして、キヨが亡くなって10年後、学園紛争華やかな昭和45年、ノンポリでどのセクトにも属さない私はそれなりの青春時代を過ごしていた。
 仲間たちに波紋をもたらしたのは、ユリコという、定時制高校に通う女工だった。彼女の放つ正論に動揺した仲間たちは、それぞれの青春の終わりに向かって歩み出す。
 それを理解するまでに費やした時間がこの小説の全てなのかもしれない。

 降霊会は二度に渡っておこなわれるが、私がのぞむ霊は結局現れない。いや、自分でも誰を望んでいたのかもわからない。現れた霊、現れなかった霊、それぞれに理由があり意味があった。

 
 初老の男性が思い出す、少年時代、青年時代の悔恨。だが亡霊たちは何の解決ももたらさない。すべては過去のなかに埋もれていった思い出ばかり。
 亡霊だけが過去の世に生きている。
 

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