2012年10月20日土曜日

裏閻魔は今も闇をさまよっている

「裏閻魔3」
中村 ふみ

単行本(ソフトカバー): 365ページ
出版社: エイ出版社
ISBN-10: 4777923746
ISBN-13: 978-4777923748
発売日: 2012/6/29

 


昭和三十二年――京都で夜叉との再会を果たした閻魔は、戦時中に姿を消した奈津が沖縄に渡ったことを知らされる。アメリカ統治下の沖縄に密航した閻魔だったが、そこに奈津の姿はなかった。
一方、夜叉は、不死者を狙う皆藤浩一郎に追いつめられていた。浩一郎の目的は、〈不老不死〉の科学的な解明。己の寿命を悟った夜叉の脳裏によぎる、かつての自分が犯してきたいくつかの罪。そのなかには戦時中、奈津の運命を変えたある邂逅もあった……。
同じ頃、奈津が綴った手紙によって閻魔もすべての真実を知る。
時を超えて求め合う三つの運命が交錯したそのとき、百年の愛が動きだす……。『裏閻魔』三部作、いよいよ感動の最終巻!

 これまでの2巻はこちら。

 裏閻魔
 裏閻魔2


 昭和32年から昭和41年。
 もはや戦後ではないといわれた頃から、東京五輪が開催され、ビートルズが来日するまでの、日本が高度経済成長への足がかりをつかんだ、そんな時代。死ぬことができない男2人と、それに関わってしまった人々の物語。
 
 今回、皆藤浩一郎という「悪ガキ」が閻魔と夜叉を翻弄する。
 皆藤の曾祖父は閻魔こと一之瀬周(あまね)を新選組に手引きした男であり、その因縁が今になって復讐譚に結びつく。
 いやなガキだ。京都にいた夜叉をつけねらい、あわよくば誘拐して、その体組織を手に入れて不死の研究をしようとする。
 あるいは製薬会社の跡取りとして、閻魔を見つけ出し、研究に名を借りた自分の野望を果たそうとする。一旦はガキの手に落ちたものの、そこから抜け出そうとする閻魔の凄まじい行動は、まさに劇画の世界でもあるが、なんのことはない、昨今はハリウッド映画にも出て来るようなアイデアになってしまった。
 巻末、製薬会社の研究所でのアクションは、結局ふたりの不死の男を結びつけることになる。

 あわれな奈津は今回、大事な役回りを果たす。
 これまでは閻魔の思い人でありながらそれをはぐらかし、自分でも閻魔への気持ちをもてあましながら、ついに老婆となり、閻魔を思いながらも最後に一目だけでも、と思いをつのらせている。
 その奈津が沖縄にあって、これが最後と、自分の気持ちを、出すあてのない手紙にしたためていく。それが戦時中の思い出であり、今の自分の変わり果てた姿の真相だった。
 その手紙が過去と現在をつなぎ、エピソードがからみあう。
 最後の最後に閻魔と過ごした何か月かの思い出を胸に、奈津は逝ってしまうが、これは約束事でしようがない。

 そして、夜叉と閻魔。
 姉を殺した下手人として夜叉を追っていた閻魔だが、夜叉も罪滅ぼしのつもりか、閻魔や奈津のために行動する。あるいは皆藤の追求の手がふたりに及ぶことが原因なのか、ついついお互いにそれとなく、共通の敵に対して共同戦線を張ることになっていく。
 巻末、皆藤の研究所に囚われた夜叉を救出しに行く閻魔は、浩一郎などとは桁違いのパワーを発揮し、ついには皆藤を殲滅してしまう。
 
 幕末の昔から閻魔と夜叉を保護してきた牟田家は、養子の惠子の時代になり、高度経済成長にともない会社はますます発展している。
 そして平成の今、惠子の孫娘・志信(しのぶ)が高校生になっている。その志信が渋谷で、家にある閻魔の写真とそっくりな男の人を見た、と惠子に報告にくる。「もし、その人が困っていたら、牟田家の総力をあげて助けてあげて」と惠子は孫娘に託す。
 
 堂々たる大団円。
 3部作の完結。この世界のどこかで鬼を持つ男たちが未だに闇をさまよっていることが暗示され、味わい深い幕切れとなった。
  

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