「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
東野 圭吾
単行本: 385ページ
出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
言語 日本語
ISBN-10: 4041101360
ISBN-13: 978-4041101360
発売日: 2012/3/28
夢をとるか、愛をとるか。現実をとるか、理想をとるか。人情をとるか、道理をとるか。家族をとるか、将来をとるか。野望をとるか、幸せをとるか。
あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は…。
物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。
第一章 回答は牛乳箱に
強盗にはいり、そこで盗んだクルマが故障してしまったあげくに、翔太、敦也、幸平という3人の若者が忍び込んだのは、廃屋となっている雑貨店。朝までそこに潜んでいようというのだ。
だが、そこに玄関から手紙が放り込まれる。差出人は「月のうさぎ」。来年のオリンピックにそなえてもっと練習時間をとるか、病気の恋人を看病するか、悩んでいるのだという。返事として、気の向くまま自分の考えを書いた返事を裏の牛乳ポストに入れたのだが、そのとたん、また玄関から手紙が舞い落ちる。その内容は自分が書いた返答に対する反応だった。牛乳ポストにいれた返答の手紙はなくなっている。
手紙のやりとりの中で、この悩み相談の手紙は30年以上前の1979年から届いていることがわかる。最近見た映画は「エイリアン」。いま流行っている歌は「いとしのエリー」なのだそうだ。
この家には別の時間が流れている―そう気がついた3人は、悩みの主に何かアドバイスをしてみたくなる。
2度、3度と手紙のやりとりが続く。オリンピックの夢をとるか、恋人の看病という愛をとるか。
最後の返答には「オリンピックなんかあきらめて、恋人との時間を大切にしなさい」と答えを書く。何故なら、翌年行われるオリンピックとは「モスクワオリンピック」なのだ。その大会には日本からは選手団が参加しないことを、3人は知っていた・・・
第二章 夜更けにハーモニカを
松岡克郎、ミュージシャンになる夢を捨てられず、父の反対を押し切って大学中退。だが、目が出ない。ちいさな店のあとをついで、魚屋ミュージシャンとしてギターをひきながら「丸光園」という児童保護施設の慰問演奏を続けている。
そんな松岡の相談は、音楽を続けるべきか、魚屋で終わるべきか、だった。
返事はつれないものだった。「魚屋を継げ」。現実をとるか、理想をとるか。
ある年のクリスマス、丸光園で演奏していたとき、一人の少女が、今までなんの反応もしめさなかったのに、「再生」の演奏を始めたとたん、急に反応を示した。オリジナルの楽曲「再生」は自信作だ。
やはりミュージシャンの夢を捨てられない松岡は改めて相談の手紙を出す。
そのときの返事は、次に手紙を入れるときに、雑貨店の前で演奏してくれ、というものだった。
雑貨店の前で演奏したあと、回答の手紙を見ると、「音楽は続けなさい。あなたの曲は永遠に残る」というものだった。
その返事に自信を得た松岡はその年のクリスマス、再び「丸光園」で慰問演奏をおこなうのだが、その夜・・・
第三章 シビックで朝まで
浪矢雄治の息子・貴之。おやじが道楽で始めた、雑貨店での相談ごっこ。はじめは子供たちの、とんち遊びに似たものだった。「テストで100点を取りたい」「先生に、あなたについての問題を作ってもらいなさい。それなら、100点取れるでしょう」。そんなやりとりを店の表に貼り出していたのだ。
だが、その相談は徐々に深刻なものになってくる。そんなときは夜通し考え事をしている雄治の姿を、貴之は見ていたことがある。個人的な返事はその人あての封筒に入れて裏の牛乳ポストにいれておく。相談したひとは自分宛の封書を持ち帰るというシステムができあがった。
年をとり病気がちになった父親を引き取り、東京で暮らそうと貴之は誘うのだが、父親は頑としてうけいれない。人情をとるか、道理をとるか。
そんな父親が、がんになり、店もたたむことになった。それから何年かたった。
死期が近づいたとき、父親は、もう一度店に行って、朝までそこで過ごしたいといいだす。貴之は父親を店にいれ、自分は送って行ったクルマの中で一夜を過ごす。そしてその朝方、届いていた膨大な封筒の山を見てびっくりする。
第四章 黙祷はビートルズで
和久浩介は中学生。友人とともにビートルズに夢中だ。家では立派なオーディオ装置をもち、同級生のみんなから羨望の目で見られている。
だが、そんな和久家が夜逃げすることになった。父親の商売がうまくいかなくなったのだ。
夜逃げする前に、浩介は雑貨店に相談の手紙を書く。ぼくは家族と一緒に逃げるほうがよいのか、あまりうまくいっていない家族とは別に自分の人生を選ぶ方がよいのでしょうか。家族をとるか、将来をとるか。
相談の返事は「家族とともにいなさい」だった。
だが、富士川サービスエリアで父母のクルマから逃げ出し、ヒッチハイクで東京に戻ってしまう。そして警察に保護され、藤川博というあらたな戸籍をもつことになった。
新聞の報道では、母と自分はクルマごと海に沈み、父は首を括って死んだという。
浩介は児童保護施設「丸光園」で育てられる。
そして現在、育った町を訪れた浩介は、ビートルズ専門のバーに辿り着く。そこで見つけたのは夜逃げするときに親友に買ってもらったレコードだった。バーの経営者はその友人の妹だったのだ。
バーではビートルズの過去のフィルムを上映している。浩介は、自分も夜逃げの直前に見た「レット・イット・ビー」を改めて見てみる。そのとき、過去の自分が見た時とは違う印象を抱く。
家族がばらばらだと感じていたときに見たその映画は、演奏がまとまらず、各自が勝手に演奏しているように見えたのだが、いま、それを見ていると、まったく違うように見えるのだ。
第五章 空の上から祈りを
武藤晴美の相談は、アルバイトしている水商売で名を上げるか、今のまま、うだつのあがらない事務員の仕事を続けるか、どちらをとればよいのか、という内容だった。
3人の最初の回答は「水商売などやめなさい」だった。
野望をとるか、幸せをとるか。
晴美はホステスの仕事で知り合った男と駆け落ちする仲になったのだが、邪魔がはいり実現できなかった。
今の晴美は現在の「丸光園」を正しい経営状態に戻すために努力している実業家だった。
その財産を狙って3人の若者が晴美の実家を狙う。だが、その結果は・・・
3人の強盗たちは晴美のバッグから手紙を入手する。それはナミヤ雑貨店あてに書かれたお礼の手紙だった。
こうして、丸光園の関係者たちの間にひそかなつながりが生まれる。
3人の強盗たち自身が丸光園出身だったことも明らかになり、晴美ともつながりがあったこともわかる。その合間に「再生」という歌があり、ビートルズの曲がつなぐ人々のかかわりがあざやかに結びつけられて、堂々たるエンディングを迎える。
強引な設定だが、時を旅する手紙は、ある使命をおびて時代を飛び交ったのだ。SFめいた設定の作品も多い東野さんの傑作。
0 件のコメント:
コメントを投稿